天に見えるは、月
安堵のせいで気が緩んだのか、心の底からなにかがせり上がってくるのを感じた。
ここで泣いたらだめだ。自分を戒めるようにぐっと下唇を噛みしめる。
少し冷静さを取り戻すと、周りの声が耳に入ってきた。
「どうしたんだろうね」、「具合悪くなったのかな」という女性の声。「酔っ払いか?」という男性の声。そのうち、ひとつの声が近くなった。
「どうしたのー?」
誰かにトントンと背中を叩かれた。
複数人の気配がする。くだけた言い方から、警察ということはなさそうだ。
「具合悪いなら、休めるところに連れてってあげようかー?」
笑い声にまじって「ばか」、「やべーよ」という声が聞こえる。酔っ払いだろうか。
早く立ち去ってくれないかと身を固くしていると、突然、手の甲にひやりとしたものが当たった。驚いて、顔を上げる。
視界に入ったのは、ペットボトルの水。
「――行くぞ」
見上げれば、そこにはもう帰ったと思っていたモンドが立っていた。
「ここは人通りが多い。こんなところにしゃがんでいたら邪魔だろう」
周りを見れば、さっきの酔っ払いらしき人たちの姿はなかった。モンドの姿を見て立ち去ってくれたのだろうか。
しかし、モンドがここに戻ってくるとは。しかもペットボトルの水まで携えて。
香凛は意外な状況に、言葉を失っていた。
「……立てないのか?」
そう言うが早いか、モンドは香凛の腕を引き上げる。体を持ち上げられた格好になってふらりとよろめき、あろうことかモンドに寄りかかってしまった。
「あっ……す、すみません!」
「……いい。そのまま腕にでも掴まってろ」
言葉の意味が理解できずにいると、モンドは驚くことに香凛の腰に手を回した。