天に見えるは、月
「あのね、実夏」
「別れてよ」
実夏のこんな嫉妬剥き出しの顏なんか、当たり前だけど今まで見たことがない。
「わたし、勇作にそんな話されたことないよ」
発した声が震えていた。自分では冷静なつもりだったのに。
「香凛に嘘つかれるとはね。それとも、都合の悪い話は記憶から抹殺してるの?」
もうなにを言っても、実夏には信じてもらえなそうだ。でも、このまま黙ってしまうのは悔しい。
「違う……本当なんだって……!」
「往生際が悪いね、あんた」
実夏は吐き捨てるようにそう言って、駐車場からいなくなった。
「あー……」
ため息をついたつもりが、声が出てしまう。吐き出せなかったなにかの代わりに、声が出てしまったのかもしれない。
今自分は、悔しいのか、悲しいのか、辛いのか、ムカついているのか、正直わからなかった。
ただ、頭には彼と友人をいっぺんになくしたという事実だけがぼんやり浮かんでいた。
いっそ一思いに、なんて思ったけれど、こんなの、死ぬに死ねない。
「……わけわかんない」
でもわかったことがたったひとつ、ある。
“自分の居場所が、消える”
そう思った瞬間、削られて細くなっていたつっかえ棒が折れた気がした。支えられていた心がぐらりと揺らぐ。そうすると、現実にも足元がふらついた。
転ぶ! と思った瞬間、香凛は誰かに受け止められた。
驚いて声を出そうとすると、ふわりと柑橘系の香りが鼻を掠めた。
「なにをやっているんだ」
窘めるような、低音の声。
「……中村、課長……」


