天に見えるは、月
「……香凛が心配してくれるのはわかるけど」
実夏はもう感情を隠すことなく、あからさまに眉間に皺を寄せた。
「彼は人当たりがいいから誤解されているだけだと思う。私は、勇作君を信じてるし」
実夏は勇作のことを“勇作君”と呼んでいるのか。
冷静にそんなことを考えているもう一方で、香凛はなにかのリミッターが振り切れていた。
「……わたしも和泉勇作と付き合ってるって言っても、そう言える?」
素直に『信じてる』と言えてしまう実夏の純粋さがやっぱり羨ましくて、妬ましくて。
そんなふうに生きてこれなかった自分の人生すら、恨みたくなった。
だからつい、言ってしまった。
「うそ……」
実夏は目を見開いて香凛をしばらく見つめたあと、なぜか不敵な笑みを浮かべた。
「……びっくり。香凛が“彼女”だったんだ」
「……えっ?」
わけがわからず、訊き返す。
「勇作君に彼女がいることは、本人から聞いて知ってた。でもまさか、その彼女が香凛だとは思わなかったけど」
勇作が実夏にそんな話をしていたとは。であれば、どうして実夏は彼のことを信じられるのだろう。
「何度も別れ話しているそうじゃない。でも何度言っても別れてくれないって、嘆いてたよ彼」
実夏はなにを言っているのだろう。意味がわからない。
「……ちょっと待って」
「こんな形だったけど、付き合っていることが香凛にバレてよかったかも。勇作君はもう私と付き合ってるから、悪いけど諦めて」
実夏の顔がどんどん険しくなる。