カタブツ上司に愛された結果報告書
入社したら真っ先に田中さんに声を掛けようと決めていた。

「あの日、あなたに祈っていただけたおかげで無事に内定をもらい、一緒に働けることになりました」って。


けれどそれは入社して二年になるというのに、一向に伝えられずにいる。

ううん、それどころかこの二年間で彼と交わした言葉と言ったら挨拶ぐらい。


忙しい田中さんを入社したての頃は、待ち伏せまでして挨拶をしたものだけれど、一向に彼があの日の話題を出してくることはなかった。


それってつまり田中さんはあの日のことを忘れているってことだ。

そう納得した私は、とてもじゃないけれど自分から声を掛ける勇気を持てなかった。


忘れられているのに、あの日の彼の言葉を信じてストーカーの如く入社してきた……なんて知られたら、ドン引きされてしまいそうだ。


あの眼鏡の奥に光る瞳で冷たい眼差しを向けられてしまったら……私はもう生きていけないと思う。


え? 大袈裟じゃないの? って思われてしまいそうだけど、全然大袈裟なんかじゃない。


田中さんは覚えていないかもしれないけど、私はしっかり覚えているわけでして。

同じ職場で毎日顔を見ているうちに、気持ちは加速していってしまったのです。
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