カタブツ上司に愛された結果報告書
落ち着け自分!
自然に声を掛けないと。たまたま帰り道に見かけただけ。だから声を掛けたって思わせないと。

高鳴る心臓を鎮めもう一度深呼吸をし、いざ歩みを進めていく。


一歩、また一歩と近づいていくたびにせっかく鎮めたはずの心臓は、今まで以上に忙しなく動きだしてしまうけれど、今はそんなこと気にしていられない。


田中さんと話がしたい。もっと近づきたい。彼のこと、知りたい――。


そんな想いでいっぱいいっぱいだった。

呼吸を整えるようにゆっくり近づいていくと見えてきたパーキング。


いよいよだ。自然に自然に……!


何度も心の中で囁きながらも、思わず生唾を飲み込んでしまったとき。


「……滑川さん?」


自然に声を掛けることばかり考えていた私の予想に反して、田中さんは先に気づき声を掛けてきた。


まさかの事態に身体を震わせ、足を止めてしまう。

視線を向ければ、田中さんの眼鏡の奥に見える瞳はしっかり私の姿を捉えている。
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