The price of life
 カインが次に目を覚ますと、そこは見覚えのある牢屋の中だった。
「あら、ようやくお目覚めかしら?坊や」
牢屋の鉄格子の向こう側に赤いローブを身にまとった魔法使いらしき女性が立っている。右手にはクリスタル製の杖を持っている。
「ここは……さっきの牢屋。俺はたしか闘技場にいて……そうだ!マリアは、マリアはどうなったんだ!?」
「負けた方の遺体は猛獣の餌になる。あなたも聞いたでしょ?それとも、どこをどういう風に喰われたのか知りたいっていうのなら教えてあげるけど?」
「やめろ!!そんなこと、聞きたくない!!」
「あらそう。会場は大盛り上がりだったけどね」
「お前は、誰だ!?さっき急に眠くなったのもお前の仕業か!?」
「残念だけど、坊やと弱者に名乗る名前は持ちあわせてないの。ごめんなさいね。さっきのは私の魔法よ。おかげでグッスリ眠れたでしょ?」
「余計なことをするな!!俺は、俺はマリアを守りたかった。せめて身体だけでも、守りたかったんだ!!」
「無理ね。だって、あなたは弱いから。自分自身も守れるかどうか分からないようなあなたが他人を守ることなんてできるはずがないわ」
「そんなこと、やってみなけりゃ分からない!!」
「威勢だけはいいのね、坊や。嫌いじゃないわよ、そういう子。でもね、坊や。想いだけでは、優しいだけでは何も守れないのよ」
一瞬、思いつめた表情を見せる魔法使いの女性。
「ちょっと喋り過ぎたみたいね。さぁ、出なさい。次の対戦相手があなたを待っているわ」
魔法使いの女性が牢屋の鍵を開ける。鉄格子の扉が開く音が薄暗い室内に響き渡る。
「断る!お前たちの言いなりになんかならない!!お前達は、狂ってる!」
溜め息を漏らす魔法使いの女性。
「あなたに選択肢なんてないのよ。あなたは"私達"に生かされているの。ここを出たければ勝ち続けるしかないのよ、あなたは。お分かり?それとも、今ここで殺してあげてもいいのよ」
一瞬にして魔法使いの女性の雰囲気が変わる。あまりの殺気に寒気を感じるカイン。指1本動かすことさえできない。
「くっ……分かった。こんな目に俺達を遭わせた奴を殺すまで、俺は死ぬわけにはいかない。マリアの為にも」
殺気を抑え、魔法使いの女性が元の雰囲気へと戻っていく。
「聞き分けのいい子も、お姉さん好きよ。そうそう、これはあなたに渡しておくわね。あのマリアってお嬢ちゃんの形見よ」
それはマリアが持っていたダガーだった。所々血で汚れてしまっている。カインはそれを魔法使いの女性から受け取ると、少しの間見つめてから自身の服で汚れている部分を拭き取り、自身の腰に差した。
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