部長っ!話を聞いてください!
「土屋、なんかにおうぞ」
「すみません」
謝りながら、私は後退する。
「消臭スプレー使いすぎちゃって……昨日の夜」
“昨日の夜”と言った瞬間、さらに部長の眉間のしわが深くなった。
重かったボトルがすっかり軽くなってしまったくらいに、消臭剤を使ってしまったのだ。くさいと言われて当然かもしれない。
エレベーターが一階に到着する。
慌てて降りてから、私は後ろを振り返った。
隣に並んで歩きたかったのだけれど、あっという間に、部長は目の前を通りすぎて行ってしまった。
私はめげずに、部長を追いかけた。
外に出てしまえば、においもあまり気にならないだろうし……並んで歩きたい!
「部長と同じマンションに住んでいたなんて、全然知りませんでした」
できるだけ元気よく話しかけると、部長が気だるそうに私に目を向けた。
私が笑みを浮かべると、部長は小さくため息を吐く。
「俺は半年くらい前に越してきたばかりだし、出社も退社も、お前とは少し時間がずれてるからな」
「部長は何階に住んでるんですか? 私は二階です。202です」
「三階」
「上じゃないですか! びっくりするくらい近い所に住んでいらしたんですねっ!」
「ほんとだよな」