部長っ!話を聞いてください!
深呼吸をしてから、もう一度話しかけようとした瞬間、それを察知した部長がまた人差し指を立て“静かに”とジェスチャーで訴えてきた。
口を開こうとするたび、部長はそのジェスチャーを繰り返し、おまけに私に冷たい目を向ける。
こんなに近くにいるのに、まったく話しかけられない!
口を開けたり閉めたりと、もどかしさを募らせていくうちに、電車は会社の最寄り駅に到着してしまった。
「ぶっ、部長っ!?」
そして案の定、車両から降りた部長の姿はあっという間に遠ざかっていく。
負けてなるものか!
がむしゃらに階段を駆け上がり、なんとか部長の後ろについた。
「部長!」
ほんの一瞬、部長が肩越しに私をちらりと見た。
ただそれだけで、足を止めてはくれない。そのまま前へと進んでいく。
「聞いてくださいっ!」
振り向いてくれない背中へと、必死に話しかけた。
「それ、私じゃないんです!」
僅かに部長の肩が動いた。
「昨日は、姉が勝手に私の家に男性を――……うっ!」
私の叫びを妨げるように警告音が鳴った。
視線を落とせば、自動改札のゲートが閉まっている。