部長っ!話を聞いてください!
ポケットをまさぐり、鞄の中を覗き込み、頭の中が真っ白になる。
部長を追いかけることに必死だったから、ICカードの入ったパスケースをどこに仕舞い込んだか、覚えていない。
顔を上げると、部長は立ち止まっていた。私をじっと見つめている。
その表情は困惑しているようにも見えた。
私の無様な現状ではなく、さっきの言葉に反応してくれたのだと思いたい!
「姉が勝手に家の中に男性をっ!」
声を張り上げると、すっと、部長の表情の温度が低下した。
「はいはい」
それだけ言って、部長は私に背を向けた。
一生懸命近づけたはずの距離が、また遠くなっていく。
あと一歩の所で部長に追いつけない。
軽くあしらわれてしまった。信じてもらえない。
「部長」
悲しくて、悔しくて、寂しくて、心が苦しくなっていく。
ぐっと拳を握りしめる。
もう一度鞄をさぐり、横のポケットに見つけたパスケースを急いで掴み取ると、自動改札の読み取り部分に押し付け閉ざされていたゲートを開放する。
「部長ーーーーっ!!」
一声叫んでから、人波の遥か向こうで見え隠れする後ろ姿へと大きく一歩を踏み出した。
なかなか追いつかなくても、目の前でエレベーターの扉を閉められても、目を合わせてくれなくても、へこんでなんていられない。