黄金の覇王と奪われし花嫁
「ねぇ、トゥイ。 私はもう族長の娘ではなくなったの。今の立場はあなたと同じよ。 だから、もう私の世話係を続ける必要なんてないのよ」

今朝も当然のようにユアンの髪を編みにやってきたトゥイにユアンは言った。

トゥイはユアンの髪に香油を塗り、丁寧に梳きながら答える。

「ユアン様の髪を編む権利を、他の娘になど譲る気はありませんわ。
それに、バラク様の許可も得ていますし」

「あの男に何か言われたの!?」

怒りを露わにするユアンに対して、トゥイはおっとりと微笑んだ。

「いいえ〜。誰か男の元に嫁ぐか、このまま自分のオルタに残るか好きな方を選べと言われたので、ユアン様のお側にいたいと言っただけです。
そしたら、正式に第一后妃付きの侍女にしてくれました」

「誰が第一后妃よっ」

第一后妃とはすなわち正妻のことだ。

戦に勝利する度に女達を受け継ぐので、有力部族の長のオルタには数十人単位で女がいるのが常だ。

ユアンの父のオルタにも常時20人程の女達がいたが、后妃と呼ばれる本来の意味での妻は4人だった。

后妃、特に第一后妃の地位は高い。
遊牧と戦で留守の多い夫に代わり、オルタを取り仕切るのは后妃の役目だ。
有力部族の后妃ともなれば、莫大な財産と権力を有することになる。

しかも后妃の地位は本人が死ねまで保証される。夫の一存で后妃の序列を入れ替えるようなことも出来ない。

そのため、有能な族長ほど后妃を厳選し、むやみやたらに増やすようなマネはしなかった。
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