黄金の覇王と奪われし花嫁
「血に飢えた狼のように戦を好む男が非道ではないなんて、説得力の欠片もないわ」

ユアンのきつい物言いにもバラクは動じることなく、あははと快活に笑った。


「それもそうだな。お前はなかなか賢い女だ」

ユアンはバラクのこういうところが苦手だった。怒らせようとしても、するりとかわされてしまう。
飄々としていて、何を考えているのか読めないのだ。

冷酷非道に他部族を滅ぼしていく黄金の狼と目の前で明るく笑っている男はまるで別人のようで、ユアンの混乱は深まるばかりだった。


「ユアン。俺はこの地を、アリンナを統一するつもりだ。
だから、それまでは戦を続ける」

バラクはまっすぐにユアンの目を見つめて、凛とした声で言った。

ユアンは耳を疑った。

この男は何を言っているのだろう。


アリンナは広い。数百近い部族があり、もう何十年と興亡を繰り返している。


「統一など・・ずいぶん馬鹿げたことを言うのね」

「そうか? 何十年と下らない小競り合いを繰り返す方がよっぽど馬鹿馬鹿しいとは思わないか?」

ーー戦は人も家畜も無駄に殺す。

なんの益も生まない。
部族などというちっぽけな概念がなくなれば、アリンナはもっと発展する。

戦に使っていた労力を交易に費やしたらどうなると思う?

俺は、あの地平線の先にある世界が見たいんだーー

バラクの語る壮大な物語にユアンは心底驚いた。

アリンナで最も大きな部族の長であった父でさえ、部族間の争いをなくすなんて考えは持っていなかった。
シーン族の誰も、アリンナを統一しようなんて言わなかった。


ユアンは改めて目の前の男を見つめた。


もしかしたら・・・

この男は本当に、それを成し遂げるのかも知れない。

父や兄が負けたのは、その大きな歴史のためだったのかも知れない。


ユアンはそんな風に感じた。
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