黄金の覇王と奪われし花嫁
目の前に広がる光景が、ユアンにはどうしても信じられなかった。


ボロボロに壊されたオルタ(天幕)の上に、馬と人が重なり合うように倒れている。

土埃と血のまざった生臭い匂いが充満しているが、もう鼻が麻痺して何も感じない。


歴史ある誇り高きシーン族が、

このアリンナの地で最強と謳われた父が、

辺境の蛮族などに敗れるとは・・・



ユアンは胸から血を流して倒れている若い男の手から短剣を抜き取った。

「サイラス・・ちょっと貸してね」


絶命しているその男はユアンの幼友達だった。陽気な性格で、騎馬技術は部族の若い男達の中では一番だと言われていたのに・・・

ユアンは短剣の切っ先を自分の胸へと向けた。


父様、兄様、サイラス、ブゥダーー

先に逝ってしまった愛する者達の顔がまぶたに浮かぶ。

ーー私もすぐに側に行きます。

狙いを定めて、短剣を振り下ろそうした正にその時だった。


「シーンの娘、勝手なマネをするな」

天を震わすような、強く鋭い声がユアンの動きを止めた。

ユアンは声の主をゆっくりと振り返る。
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