黄金の覇王と奪われし花嫁
バラクは疲れたと言わんばかりの表情でふーっと細く息を吐いた。

「では、俺にどうして欲しい?」

「・・・他に、もっと相応しい女を妻に迎えて」

ユアンはバラクの顔も見ずに、そう言った。かすかに震える自分の指先を睨みつけるように凝視する。

こんなことを突然言い出すつもりなどなかったのに・・・
どうしてか、ユアンの口は止まらなかった。

バラクが呆れるのも当然だ。

「ガイールの血が欲しいのなら、他にも縁者がいるわ」

絞り出すような声でユアンは言った。

この前の会話を聞いていたこと、鋭いバラクなら気がついたかも知れない。

けれど、バラクはユアンを問い詰めることはしなかった。

黙ってユアンを見つめ、静かな声で問う。

「お前はどうする?」

私? 私は・・・

「誰か、別の男の元に嫁ぎます」

ただ、バラクの側を離れたかった。
バラクの側にいると、どんどん馬鹿な女になっていく。

バラクの新しい妻が誰だろうと、自分の新しい夫が誰だろうとどうでもよかった。


「・・・それは許さん。お前は俺のものだと言っただろう」

バラクは強い声で言うと、ユアンに覆いかぶさるように寝台に押し倒した。

初めて会った時と同じ獲物を狙う獣のようなバラクがそこにいた。

黄金の瞳がユアンを捉える。

ぎりりと細い手首が締めつけられ、ユアンは身体の自由を奪われる。

バラクの唇がユアンの首筋を這う。
びくりと身体が震えた。身体を捩って抵抗しようとしたが、無駄な足掻きだった。

バラクはユアンの抵抗を無視し、その唇に噛みつこうとしたーーその瞬間。


「いやっ」


ユアンが小さく叫び声をあげ、力の限りバラクを押し退けた。
ポロポロと涙を零し、全身でバラクを拒絶していた。

バラクが一瞬ひいたその隙に、ユアンはバラクの下から逃げ出した。
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