黄金の覇王と奪われし花嫁
「あなた以外なら誰でもいい。きちんと子を産み、ウラール族のために尽くすと誓うわ。だから、お願い。私を解放して・・・あなたの側にいるのは辛い」

バラクとユアンの視線が絡み合う。

バラクはこれまでユアンが一度も見たことのない顔をしていた。
黄金の瞳の強い光は消え失せ、傷ついた獣のように弱々しかった。

ユアンは心臓がぎゅっと握り潰されるような痛みを覚えたが、発言を撤回することはできなかった。

バラクは他に妻を迎え、ユアンは別の男に嫁ぐ。
それがお互いの為だと思った。


バラクは傷ついた姿を隠すようにユアンに背を向け、言った。


「わかった。お前の言う通りにしよう。
嫁ぎ先は考えておく」


ユアンはバラクの後ろ姿を見送ると、両手で顔を覆ってその場にうずくまった。


どうして、バラクだったのだろう。


父の、兄の、仇にもかかわらず・・・

ユアンはいつの間にか、バラクに好意を持ってしまった。
ユアンの髪を撫でる優しい手も、快活に笑う明るい声も、自信たっぷりの笑顔も、どうしても嫌いになれなかった。


「嫌い・・バラクなんて嫌いよ」

永遠に嫌な男でいてくれたら良かった。
ずっと憎み続けていられたら、どんなに楽だったか・・。

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