黄金の覇王と奪われし花嫁
◇◇◇

ビィーー、ビィーー。

バラクは大きく息を吸うと、首から下げていた笛を鳴らした。
夜の闇を突き破るように笛の音が響く。


これは緊急事態を知らせる笛だ。周辺のオルタからウラール族の男達が飛び出してきて、馬に跨がる。

バラクの指示の元、あっと言う間に隊形を整えていく。

ぎりぎり間に合ったか・・・
バラクはうっすらと口元を緩めた。

ウラールの騎馬隊が戦闘態勢に入ったその瞬間に、侵略者の矢が一斉に放たれたのだ。


「ハカ族の奇襲だ。迎え討てっ」

うおぉぉーー。

バラクは右手を突き上げ檄を飛ばした。
それに応えるように、ウラールの騎馬が突進していく。

静かだった夜が嘘のように、その場は血と汗と砂塵の舞う戦場と化した。
あちこちで怒号や悲鳴が飛び交う。

バラクは敵の刃を潜り抜けながら、冷静に状況を読んでいた。

乱戦の様相を呈しており状況がつかみづらいが、おそらく数ではこちらが勝っている。

ユアンは本当にお手柄だった。
彼女がいち早く異変を察したおかげで、迎え討つ準備が出来たのだ。
ほんの少しでも対応が遅れていたら、初動でこちら側に大きな被害が出ていただろう。

ネイゼルがこういった賭けに出てくるとは思っていなかった。

本来、風の民は奇襲や暗殺といったやり方を好まない。
騎馬隊は明るく見通しのよい場所でこそ、その実力を存分に発揮できるからだ。
そして何より、卑怯な勝利は敗北より不名誉だとされていた。

だが、その思い込みを逆手に取られたのはバラクのミスだ。
ネイゼルは勝利のためには手段を選ばない男なのだろう。

バラクはそれを卑怯だと責める気は毛頭ない。それが確実な策なら自分もやるだろうとも思う。
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