イレカワリ~番外編~
沙耶が幼い海に伝えた気持ちを、俺は伝える必要がある。


「そうか……。できるだけ沢山、後悔しないように思い出を作りなさい」



お父さんが静かな声で言う。


俺は弾かれたように立ち上がった。


後悔しないように。


そんなの、わからなかった。


きっと今の時間を濃厚に過ごしたって、後悔はするだろう。


もっとああすれば、もっとこうしていれば。


思い出してはため息を吐き出すだろう。


それが人間だから。


「ごめん、俺ももう行く」


ご飯に手を付けず、そう言った。


お母さんは驚いた顔をしていたけれど、引き止めなかった。


俺は玄関を出て、自転車をこぐ。


先に出た海に近づくように、少しでも早く伝えられるようにと……。
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