小悪魔な彼にこっそり狙われています
「あっ!はねた!」
「わっ、大丈夫?」
あわててグラスをテーブルに置くと、ワインを拭くべく、肩に提げていたショルダーバッグからハンカチを取り出す。
けれど小さなバッグからは引っ張り出したハンカチとともに、スマートフォンも出てきてしまい、白いケースのスマートフォンは赤い絨毯の上に落ちた。
「あはは、井上さん意外とそそっかしい」
彼はそう笑いながら、足元に落ちたスマートフォンを拾ってくれる。
すると、スマートフォンにつけていたストラップがプラリと揺れた。
「あ、ストラップかわいいね」
彼はそう言ってコーギーの絵柄のメタルチャームをまじまじと見つめる。
「井上さん、犬好きなの?」
「え、えぇ。昔から、犬が好きで」
「へぇ、意外!犬のストラップまでつけちゃうなんて、井上さんかわいいね」
彼が笑いながら言う、『かわいい』は、来栖くんも言っていたセリフ。
なのに、同じひと言が、どうしてこんなに響かないのだろう。
『かわいいです』
彼の、時折見せる小さな笑みを思い出して、また胸が小さく痛む。
その痛みをこらえながらスマートフォンを受け取った。