小悪魔な彼にこっそり狙われています
「井上さん」
「え?」
突然かけられた声に振り向くと、そこにいたのは経理課で働く先輩男性社員。
背の高い彼は私を見て口元にシワを寄せて微笑むと、隣に並ぶように立つ。
「お疲れ様、飲んでる?」
「えぇ、今も一杯飲み干したところです」
笑いながら答え、空になったグラスを見せる私に、彼はたまたま近くを通りがかったウェイターから白ワインをふたつ受け取るとひとつを私に手渡した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。せっかくだし、ちょっと一緒に飲まない?」
それを受け取りそっとグラスを合わせると、『えぇ』と答える代わりに、グラスがコン、と繊細な音を立てる。
「最近、井上さん雰囲気変わったよね」
「そうですか?」
「うん。いつもならちょっと声かけづらいけど、今日はいけそうな気がして声かけてみた」
冗談めかして笑う彼に小さく笑う。
するとその時、ちょうど近くをすれ違った人に腕がぶつかってしまい、グラスの中のワインが揺れ私の白いカットソーに水滴がはねた。