女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 31歳、百貨店の地下の食品売り場で、チョコレート屋の販売員をしている。

 そして私が人から桑谷さんと呼ばれても気付かないことに不満を漏らしまくっている夫、桑谷彰人34歳も同じ百貨店の地下で働いている。

 ただし、あちらは百貨店の社員で、鮮魚売り場の責任者だ。私はメーカーの人間で、桃源堂という名前のチョコレート屋さんの準社員。

 お互いの売り場から姿が見える間柄で、百貨店の人間からもメーカーの人間からも何かとネタにされているらしい。

 1年前に出会ってから結婚までが早かった。

 去年の今頃は私は、まだ現在は様々な罪で入牢中の悪魔の化身であった守口斎という男と付き合っていて、痛い目を見る前だったんだな。

 ・・・ま、あれは思い出したくもないんだけど。

 1年経ってみると、私は人妻。それも、一癖も二癖もある色んな意味で凄い男の妻。

 ・・・なぜ、こんなことに。最近でもそう思うくらい忙しく目まぐるしい一年だった。

 今日は彼は出勤だけど、私はお休み。

 午前中に家事を済ませてしまったので、私はまた縁側でビールを飲んでいるというわけ。

 顔に春の光を受けながら、少しうとうととしていた。

 頭の横あたりにほったらかしの携帯が振動してメールの着信を告げる。

 この揺れ方は彼だ。

「・・・うん?」

 私はゆっくりと目を開ける。

 珍しいな、仕事中にメールなんて。何だろう・・・。


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