女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 結婚してからは一緒に住んでいるので彼とはあまり電話もメールもしなくなった。

 職場も一緒なので休憩時間がかぶったりもして、話す機会などいくらでもあるからだ。

 私は手を伸ばして携帯を掴む。

 片目だけを開けて、本文を読んだ。

「・・・・おやまあ・・・」

 彼からのメールはしごくシンプル。

 ―――――人事異動だと。魚屋は終わりだ。次は3階、スポーツ用品店――――

 ・・・・えー。魚屋終わっちゃうのか・・・。残念。

 2年が経っているから人事異動の対象になるかもとは言っていたけど、やっぱりなっちゃったんだな。

 残念。これでもう売り場からは彼の姿は見えなくなる。

 百貨店側の制服と白い防水長エプロンに身を包み、ゴムの長靴をはいているの、似合ってたのに。

 スポーツ用品店になるなら今度の制服はジャージやトレーニング服だな。180センチを越えていてスラリとはしているけどガッチリした岩みたいなあの体、百貨店と提携しているメーカーやブランドのゴルフウェアやジャージに突っ込んだらまた別の意味で目立つんだろうな。凄く、トレーナーっぽい・・・。

 まあ、今は長髪ではないし、そこそこ似合うかも・・・。

 出会ったばかりの彼は、理由あって髪を伸ばしており、肩を越える長髪を後ろでひとつで束ねていたのだ。

 あーん、残念。

 私は起き上がってビールの残りを飲み干し、つまみにしていたクリームチーズを口の中に入れる。


< 3 / 136 >

この作品をシェア

pagetop