女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
6月に入った最初の日。
私はまた自分のロッカーの前で、唇を噛んで立ちすくむ。
「・・・・」
信じられない。不快さを押し込めて、たまたま誰もいないロッカールームで、私は目を閉じて目の前の光景を追い払おうとしていた。
今度は虫だった。生命をうしなったそれが、バラバラと私のロッカーの中に転がされている。
・・・虫だけに、無視したい。
下らない駄洒落コメントを呟きかけた。取りあえず、怒りに力を借りて非常に事務的にそれらを片付ける。ぱっぱと掃除をして、私はベンチに座り込んだ。
・・・・これは、私のロッカーに自ら忍び込んだとは思えない。これが偶然でないなら、あのチューちゃんだって、もしかしたら・・・。
2回目の休憩の時間で、たまたまロッカールームには誰も居なかった。今朝は別に異常もなかった。ってことは、出勤してから今までの間に入れられたのだ。
私のロッカーの暗証番号は、4つ並んだ下のダイヤルを二つ回すだけにしかしていない。だから時間さえかければ誰にでもあけることは出来るはずだ。
もしくは――――・・・・。
私は斜め後ろの玉置さんのロッカーを振り返る。
後ろから、じっくりと私の手の動きを見てさえいれば・・・。
「畜生・・・」
ネズミだって虫だって、実際のところ大して苦手なわけではない。好きでは勿論ないが、彼らの存在を忌み嫌ったりまではいかない。
だけど、ここ最近の私は情緒不安定なのだ。