女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 6月に入った最初の日。

 私はまた自分のロッカーの前で、唇を噛んで立ちすくむ。

「・・・・」

 信じられない。不快さを押し込めて、たまたま誰もいないロッカールームで、私は目を閉じて目の前の光景を追い払おうとしていた。

 今度は虫だった。生命をうしなったそれが、バラバラと私のロッカーの中に転がされている。

 ・・・虫だけに、無視したい。

 下らない駄洒落コメントを呟きかけた。取りあえず、怒りに力を借りて非常に事務的にそれらを片付ける。ぱっぱと掃除をして、私はベンチに座り込んだ。

 ・・・・これは、私のロッカーに自ら忍び込んだとは思えない。これが偶然でないなら、あのチューちゃんだって、もしかしたら・・・。

 2回目の休憩の時間で、たまたまロッカールームには誰も居なかった。今朝は別に異常もなかった。ってことは、出勤してから今までの間に入れられたのだ。

 私のロッカーの暗証番号は、4つ並んだ下のダイヤルを二つ回すだけにしかしていない。だから時間さえかければ誰にでもあけることは出来るはずだ。

 もしくは――――・・・・。

 私は斜め後ろの玉置さんのロッカーを振り返る。

 後ろから、じっくりと私の手の動きを見てさえいれば・・・。


「畜生・・・」

 ネズミだって虫だって、実際のところ大して苦手なわけではない。好きでは勿論ないが、彼らの存在を忌み嫌ったりまではいかない。

 だけど、ここ最近の私は情緒不安定なのだ。


< 46 / 136 >

この作品をシェア

pagetop