女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 私はホッとして、頬がゆるんだ。

 やっぱり喧嘩は心が荒む。ビールとともに、それだって胎教には悪い筈だ。

 玄関には入らないままで、弘美に言った。

「彼にはナイショにして欲しいの」

「オッケー」

「携帯は使えないから、弘美の携帯をちょっと借りると思う」

「オッケー」

「色々全部、あることないこと聞いてくれる?」

 弘美が首を傾げた。

「・・・ないことは言わなくていいわよ。時間の無駄」

「慰めて、励ましてくれる?」

「あんたに必要なのは慰めや励ましや男じゃなくって、盛大なバカ笑いよ!いいから入りなさいよ」

 引っ張り込まれた。

 私は、弾んだ気持ちで友達を見る。素晴らしい、彼女は私の大事な起爆剤。

 私が持参したコンビニの袋から出したのがペットボトルのお茶で、弘美がのけぞって驚いた。

「・・・え!?」

「え?え、て何よ」

 弘美は目を見開いたままペットボトルを指差す。

「まり、それ、お茶だよ」

「判ってるわよ。買ったのは私だもの」

 弘美は変なものを見た顔をして、火のついてないタバコを指に挟んだまま固まっている。

「・・・アンタがビールを持ってこないなんて。それも、夫婦喧嘩なんてストレスが溜まりそうなことをしでかした後で。それにそれに、よく見たら、アンタ―――――」


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