イジワル同期とスイートライフ
「言えないから"微妙"なんですかね」

「…あの」

「いいですよ、せっかくなので仕事場ではできないお話しましょ、うちの頭の固い部長の悪口とか」



おどけた調子に戻ってくれたので、私も笑うことができた。

いい人だ。

久住くんとはまた違ったタイプの、振り回す人だけど。





「あ、すみません、ちょっと別件の予約してきちゃおうかな」

「いいですよ、どうぞ」



お店を出てすぐ、須加さんがそう言ったので、気にせず店内に戻ってもらった。

そろそろ薄手のコートを出そうかと思わせる夜の空気の中で、繁華街のサインを見上げていたら、バッグの中で携帯が震えているのに気づく。

久住くんだ。



「はい」

『よお、今なにしてる』

「ちょうどね、飲んでたとこ」

『誰と?』



一瞬答えに詰まったものの、嘘をつく気にはなれず、正直に言うことにした。

久住くんも営業部の人間なら、別に変に勘繰ったりしないだろう。



「須加さん」

『ああ、あれ須加さんか』



…え?

そのとき、視線を落としていた道路の上を、人の影が近づいてくるのが見えた。

少し離れたところで止まると、さっきまで携帯越しに聞いていた声が、そこから届く。



「私服だったから、わかんなかったぜ」



久住くんが立っていた。

私はまだ、携帯を耳にあてたままで、言葉も出ずに立ち尽くす。

その態度は、やましいです、と叫んでいるようなものだっただろう。

冷ややかな目が、そんな私を見つめた。



「俺、怒る権利あるよな?」



なにも言えなかった。


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