イジワル同期とスイートライフ
「これ、空行が多くて逆に読みにくい。パラグラフごとに整えてあげてくれ」

「了解」

「書体も整理したほうがいいな。慣れてりゃ気にならないんだけど、ここまで不慣れとなると、一か所でもつまずいたらパニックだ」



私はうなずいて、運営マニュアルの端にメモをとった。

部長級でも、ここまで大きな会場で、プロンプタを使ってプレゼンをする機会はなかなかない。

ほとんどの人が初めてだ。

さらに英語ということで、どの人も完全にテンパってしまっている。

今日は本来、続々到着する海外のお客様の受け入れをするはずだった久住くんは、その状況を知って、急きょこちらに合流してくれたのだった。



「久住くんて、こういうのも仕事でやるの?」

「あ?」



聞き逃したらしく、腰を上げかけていた彼が、シーバーのイヤホンを直しながらこちらに身を屈めた。



「悪い、なに」

「慣れてるねって」

「ああ。海外での発表会とか運営するのも、俺らだから」



仕事広いなあ。

でもそうか、国内営業部と同等の人数で、はるかに広い市場を見ているわけだから、ひとつの部署にいろんな業務が集まるのだ。



「じゃ、頼んだぜ」

「うん」



久住くんは再び、ポディウムのそばでプレゼンターの相談相手になる。

照明のテストも同時に行っているため、壇上には強い光が当たっている。

久住くんの着ている紺色のスーツの、細いストライプまでくっきり見える。

暗い床の上から、そんな彼を見上げた。


嫌だな。

またあの、遠い感覚。



「あのう、なにかありました?」



原稿係のスタッフさんに修正のお願いをして、隅に戻ったとき、花香さんがそっと声をかけてきた。

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