イジワル同期とスイートライフ
「ねえ、いい加減に」

「できあがったら呼んで」



満足したのか、久住くんは突然、ぽいと私を放り出して、部屋に戻ってしまった。

平然とローテーブルでPCを叩きはじめる姿を、横目でにらむ。


耳が熱い。

けど隠す手がない。

汗ばんだこめかみを腕で拭った。


なんなの、これ。

こんな、まるで、本当につきあっているみたいな。

丸めたタネをフライパンに並べながら、唇を噛む。


──私のこと好き?

たとえばそう聞いたら、彼は、どう答えるんだろう。





「嫌いじゃねーよ」

「じゃあこれは」



CDのジャケットを渡しつつ、プレイヤーの曲を切り替える。

ベッドの上に並んで寝そべった久住くんが、うーんと考え込んだ。



「嫌いじゃない」

「便利な言葉だね」

「ちょっと聴いただけで、好きかどうかなんて判断できないだろ」



まあね。

寝る前のひとときを利用して、いろいろなものの好みを把握し合う会を開いていた私たちは、いい加減寝ないとまずい時刻になっていることに気づいた。

久住くんの好きなもの、ハンバーグ、ビール、ブラックコーヒー、スポーツおおむね全般、実家の犬、ひとつ下の弟。

小説は読むと寝ちゃう、音楽は好きなバンドがひとつふたつ、服は気に入ればブランド問わず、腕時計は就職祝いに父親からもらったタグ・ホイヤー。

そこそこ情報を仕入れることができた気もするし、これだけで人のなにがわかるのって気もする。



「明日の定例会、俺、ちょっと遅れてくから」

「あ、そうなんだ。先輩は来てくれる?」

「向井(むかい)さんは時間通り行くよ、進めといて」

「了解」

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