イジワル同期とスイートライフ
どうして今日、しなかったの?

訊いたってはぐらかされるだけだろう。


時間が合わなかったり、次の朝が早かったり、そういう明確な事情がない限り、当たり前のように抱き合っていたのに。

どうしてか今日、久住くんは私を抱こうとしなかった。

そんなこと考えもしていません、みたいな涼しい顔して、さっさと寝てしまった。

そのくせ冷たいわけでも距離を置くわけでもなく、態度だけはこんなふうに甘い。

すぐに寝息をたてはじめた久住くんの腕の中で、私はそれからもしばらく、眠りが訪れるのを待ち続けた。


 * * *


「お前んとこ、家賃どのくらい?」

「管理費込みで9万1千円」

「けっこうするなあ」

「下のほうの階だともう少し安かったと思う」

「…同じマンションに住むってのもな」



まあ、そうだよね。

土曜日、久住くんは新しい部屋を探すと言って、不動産屋巡りに出かけた。

暇ならつきあってと言われ、暇だったので同行している。


路線を変える気はないので、生活に便利そうな駅をいくつか選び、不動産屋を見つけてはドアを叩く、のくり返し。

いくつか目星をつけた中で、すぐに内覧できる部屋に来てみた。

外観は少し年季が入っているものの、中は綺麗で明るい1Kだ。



「使いやすそうだね」

「そうだな」



言いながらあちこちを確かめて回る久住くんを、足が冷たいので私は上がらずに、玄関から眺めていた。

同い年くらいの不動産屋さんの男性が、にこやかな微笑みの下で、そんな私たちを観察している。



「いかがですか」



どう判断したのか、私のほうに訊いてきた。



「収納も多くて、いいと思います」

「お荷物は多いですか?」

「いや、まあ、私の部屋じゃないので」

「彼女さんのご意見も大事ですよ、ねえ」

「えっ?」

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