イジワル同期とスイートライフ
はっと顔を上げると、彼は困ったように眉根を寄せて、こちらを見ている。

そっちこそ、そんな顔しないでよ。

ていうより、私は今、どんな顔に見えているわけ。



「俺、お前に嘘なんかついてないぜ」



動揺したのは、伝わってしまっただろうか。

慌ててうなずくと、久住くんは少しの間じっと私を見て、やがて念を押した。



「信じろよ?」



言ってから、ここが打ち合わせスペースにもなる食堂の一角であることを思い出したらしく、ぱっと手を離すと、気恥ずかしそうに周囲を目で探る。

うん、信じてる。

久住くんは嘘はついてない、それは信じてるよ。


でもそこじゃないの。

どこって訊かないでね、もう少し目を逸らしていたいから。


とりあえず今、私を揺さぶっているのは、そこじゃない。





夜中に目を覚ました。

このあたりは駅前のメインストリートから少し外れた住宅地で、街の明かりも届かない。

家具の陰影がうっすら見えるだけの部屋の中、身体が覚醒するまで待ってから、水を飲もうとキッチンへ立った。



「どした?」



再びベッドに潜り込んだとき、久住くんが気配に気づいた。

こちらに身体を向けて、私を懐に入れてくれる。



「ちょっと喉が渇いただけ」

「眠れないの?」



喉が渇いただけって言っているのに。

なかなか寝つけずにいたことに、気づいていたんだろう。

抱き寄せた私の頭をなでながら、眠そうな声が笑った。



「エッチしないと眠れない身体になっちゃったんだな、かわいそうに」

「下品…」



呆れて息をつく私を覗き込むようにして、唇に柔らかいキスをくれる。

彼の言う意味とは違うけれど、眠れなかった原因は、確かにしなかったことにあるかもしれない。

< 58 / 205 >

この作品をシェア

pagetop