イジワル同期とスイートライフ
「あのさ」

「なに?」

「…黒沢さん、俺らのこと知ってるから」



予算シートを眺めながら、言われた意味をしばらく考えた。

えっ?



「それって、え、つきあってる、ってことを?」

「そう」

「いつから?」



言いづらそうに視線を落として、「昨日」と答える。

昨日って…月曜日?

幸枝さんと久住くんに、いつそんな話をする機会があったのか。

理解できず、自分でも驚くほどうろたえる私に、久住くんはなるべく言葉を少なくしたがっている様子を見せた。



「会社帰りに飲んでさ」

「ふたりで?」

「そう」

「…ばったり会ったかなにか?」

「いや、誘われて」



誘われて…って。

ふたりで飲もう、なんて、少なからず好意があるってことなんじゃないの。

幸枝さんが、久住くんを?



「なんで、行ったの、そんなの」



自分の言ったことに、自分でびっくりした。

なにを訊いたの、私。

久住くんも、驚いた顔をしている。



「なんでって」

「私の先輩だよ?」

「知ってるよ、でも俺だって仕事でつきあいあるんだし」

「ほかにも誰か誘うとか、できなかったの」



誰か止めてよ、と心が悲鳴を上げた。

私の埒も明かない難詰に、久住くんが苛立ってきているのがわかる。

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