イジワル同期とスイートライフ
「…絶対誰かに見られたぜ」

「私が悪いわけ?」

「そうは言ってないだろ」



正面の厨房から身を隠すようにメニューを立てて、こそこそと罵り合う。

顔の火照りは、引く気配を見せない。


なんだこれ。


 * * *


「気づいてたっつーの。嫌なら香水くらい変えとけバーカ」



かわいらしい声が、辛辣に鼻で笑い飛ばした。

久住くんがげんなりと応じる。



「ますます口悪くなりやがって…」

「びびってたの? お互い都内で働いてて、ニアミスくらいあって当然じゃん」

「これ正面衝突だろ、完全に」



入ろうとした会議室の中で、なにかが吹き荒れており、私は完全に登場のタイミングを失った。



「ひとりで被害者ぶらないでよね、やりづらいのはお互いさま」

「担当替えるとかできないのか」

「私はチームの売上トップだよ。替わってほしきゃ替わるけど?」



居丈高に腰に手を当てて、花香さんが言いきる。

久住くんが、彼女越しに、私をちらっと指さした。



「…言っとくけど、後ろにクライアントいるからな」

「えっ、あ!」



戸口に背中を向けていた彼女が、飛びのく勢いで振り向いて真っ赤になった。



「うわっ、失礼しました、あのですね、ええと」

「あ、あの、大丈夫です、続けてください」



なにを言ってるんだお前は、という視線を久住くんからもらってしまう。

だって、こういう感じの関係だとは思っていなくて、なんというか正直、面食らっているんだよ。

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