イジワル同期とスイートライフ
「あ…えと、ご存じ…?」



花香さんが遠慮がちに私を手で示しつつ、久住くんに尋ねる。

彼がうなずくと、ほっとしたように胸に手をあてた。



「そうでしたか、お騒がせして申し訳ありません。お仕事はきちんとやらせていただきますから」

「今さら猫かぶるとか、心臓太いな」

「あんたは黙っててくれる?」



花香さんが忌々しげな舌打ちで応じる。

普通に仲悪い。



「ええと、今日は長丁場なので、飲み物お持ちしますね」

「えっ、そんな、お構いなく」

「俺も行くよ、六条」

「逃げんの?」

「当たり前だろ、またお前とふたりとか、冗談きついわ」

「出た、向き合わない男」



冷ややかな目つきの花香さんを置いて、久住くんは私と一緒に部屋を出た。

まだなんの打ち合わせも始まっていないのに、見るからに疲れている。



「あの、大丈夫…? 顔合わせだけしたら、帰ってもいいよ」

「いや、直接相談したいこともあるし、今日は出るよ」



経費で飲み物を買うには、食堂まで行く必要がある。

エレベーターで上階に向かいながら、ため息の尽きない久住くんを見守った。



「受付に関してなんですが、いいですか」



会議の前日に行う、都内名所や事業所を巡るバスツアーの細かい段取りをすり合わせているとき、久住くんが口を開いた。

花香さんが、ぱっと目をそちらにやる。



「もちろんです」

「かなりの混乱が予想されるので、国内特約店とは別の場所、もしくは時間を一時間以上ずらすなど、できませんか」

「カウンターを二か所に設けて、導線は整理する予定ですが」



束ねた資料から、受付の見取り図を出しながら花香さんが慎重に答える。

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