イジワル同期とスイートライフ
なにか粗相でもしたかと、思わず記憶を探る。

久住くんが笑って、私の肩を抱き寄せた。



「美人が来たってさ。みんな国内の人間に興味あるんだよ、お前がきっかけになってくれたら、俺もなんかいい気分だよ」



機嫌よさそうに、ごつんと頭をぶつけてくる。


嬉しさを持て余して、途方に暮れた。

なにが困るって、現状に、なにひとつ不満がないことだ。

中身が空っぽだろうが、恋愛的な気持ちが伴っていなかろうが、久住くんが表してくれる親愛の情は、きっと間違いなく本物で、私の心を満たす。


なにかを変えたいわけじゃないのだ。

むしろ変わってほしくない。

変わってしまった私の心を、悟られたくない。

この幸せが傾くくらいなら。


 * * *


「あのさ、あの花香さんて子と久住くんて、なにかあるの」

「えっ」



一緒にランチに出たとき、幸枝さんが声をひそめてそんなことを言った。

打ち合わせの場で、そんな空気は全然出ていなかったと思うんだけれど、女の観察眼は本当に侮れない。



「昨日の別れ際、なんかちょっと気心の知れた様子を出してたんだよね」

「あ、なるほど」



たぶんふたりとも、打ち合わせが済んで気が緩んだんだな。

うーん、としばし悩み、久住くんも幸枝さん相手なら、はぐらかすより打ち明けるほうを選ぶだろうと結論を出した。



「実は、昔つきあってたんですって」

「やっぱり、そんな感じだったよ」

「幸枝さん、千里眼ですね」

「だてに長く生きてないよ」



パスタを食べながら、ふふんと笑う。

その目が、ちらっとこちらを見た。

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