人間嫌いの小説家の嘘と本当
「あの時の侑李君の顔は見ものだったよ。彼もあんな顔をするようになったんだね」
蓮見さんは、顎に蓄えた白髪交じりの髭を触りながら、嬉しそうに笑みを浮かべ、近くにある一人掛けのソファに前屈みに座る。
「はい。蒼井様のおかげで随分と感情が出るようになりました」
「私はそんな……」
櫻井さんは包帯など片付けると、お茶をお持ちしますねと一礼して部屋を出ていく。
蓮見さんと二人だけになった部屋の中。
先生の穏やかな声だけが、心地よく広がる。
「そうかい、君が――」
一瞬、鋭い眼光が私を捉え全身に緊張が走った。
けれどそれも束の間。直ぐに元の雰囲気に戻り言葉が続けられる。
「侑李君は、とても感受性の強い子でね。幼い頃から周りの大人達の顔色を伺って、自分を隠そうとするんだ」
とても懐かしそうに話すその顔は、どことなく寂しそうに見えた。
それは時折り見せる侑李の顔と似ていて、トクンと心臓が跳ねる。
「自分を隠す?」