人間嫌いの小説家の嘘と本当
そう言って背を向けようとした瞬間、腕が掴まれる。
振り返ると、寝ぼけ眼の侑李が私を見詰めていた。
「走るな、よ」
「分かってるって」
過保護なんだから。
私は微笑み、やんわりと彼の手を取り私の下腹部へと当てた。
「大丈夫だよ」
私のお腹に新たな命が宿っていることに気が付いたのは、つい先週の事だ。
去年はいろいろあって生理不順が続いていた為、今回もそれなのかなと思って産婦人科に行けば、「おめでとうございます」といきなり言われ驚いた。
それはもう鳩が豆鉄砲くらったように目を見開き、言葉を発することすら忘れていた。
けれど、その喜びはジワジワと私の中に広がり、病院を出た私は急いで侑李の元へ駆け戻り報告をしたのだ。
それからというものの、今回の侑李の言葉に現れているように「走るな」「慌てるな」「燥ぐな」という三つの言葉を、耳にタコができるくらい聞く羽目になっている。