mariage
「…でも」

「ゲストルームがありますから、そこで寝て下さい、ね?」

「…」

しばらく黙り込んで、考えたのち、私は顔を上げて、困惑しつつも、小さく頷いた。

「…今夜だけ。一晩だけ、ご厄介になります。お願いします」

私の言葉を聞き、安堵したように微笑むと、千影は頷いた。

世間話すらする気にならない私。それを察した千影は、何を言うでもなく、静かに隣にいた。

…確かに、自宅に帰れば、父に根掘り葉掘り聞かれ、疲れ果てた挙句、自分の部屋に独りになれば、悲しみに溺れていたかもしれない。

だが、千影は違う。

私の悲しみにそっと寄り添ってくれて、心が穏やかになっていく。

悲しみは消えない。けれど、独りじゃないと思えば、心が少し軽くなる。

…秀吾の事を考えれば、必然的に涙が出た。千影はただ黙って、私の手を握っていてくれた。
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