明日へ馳せる思い出のカケラ
第20話 暗闇の底で
 悶々と鬱積した気持ちを抱きながら商品を棚に補充する作業をしていた俺は、突然君から声を掛けられ吃驚するほどの衝撃を受ける。

 どうしてこの場所に君が居るのか。
 なぜ俺に声を掛けたのか。

 そこに居るはずの無い君の姿に俺は混乱するばかりだ。まさか考え過ぎによって生まれた君のまぼろしでも見ているの。

 いや、そうだったのならどれだけ救われたのだろう。いっそ気が狂ってしまったほうが楽になれたろうからね。
 でも現実は俺にとって残酷でしかなかった。
 無慈悲とも呼べるほどに、現実は俺の気持ちを逆撫でするばかりだったんだ。

 決して幻なんかじゃない。紛れも無く君はそこに存在したんだ。
 そして君は俺に向けて声を掛けた。昔と変わらない柔らか味のある温かいその声をね。

 ただ少し硬い表情からして、君の方も俺に声を掛ける事に何かしらの戸惑いがあったんだろう。
 その証拠に君は、その次の一言をなかなか切り出さなかったからね。

 二人の間に強張った緊張感が走るのを感じる。
 とても重い感覚が体を縛りつける様な、そんなうとましさを感じて仕方なかったんだ。

 俺はそんな気まずさを誤魔化す為に、商品を棚に陳列する作業を続けた。
 何でもいいから体を動かしたかったんだ。手足が震えているのを悟られたくない。そんな俺の本能が、仕事に意識を向かせようとしたんだろう。
 君とそのまま向き合っていたならば、間違いなく俺は取り乱してしまったろうからね。

 俺は君に背を向けた姿勢で作業に勤しんだ。
 もう勘弁してくれ。そう切実に願いながらね。
 だってやり場のない心の迷走が止まってくれないんだよ。いや、それどころか狼狽える心の動揺は、スピードを加速させるばかりなんだ。

 ちくしょう。今更俺に何の用があるっていうんだよ。少なくとも今の俺にはその理由がまったく見当たらない。だから俺は君がそのまま何も告げずに立ち去る事を期待するしかなかったんだ。

 ううん、俺の脆弱な心は現実を拒否したいが為に、切にそう願うしかなかったんだ。でもそんなに都合良く事が進むわけはないんだよね。

 再び君が目の前に現れた瞬間に、俺はそれを覚悟していた。
 君の姿を垣間見た瞬間に、直感として俺は理解してしまったんだよ。

 今日の君は昨夜の君とは違う。偶然に再会した昨夜とは明らかに違うんだってね。
 だってそうだろ。君は今日、俺に会う為だけにこの店に来たはずなんだから。
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