明日へ馳せる思い出のカケラ
 君の口から発せられた誠意のこもった謝罪の言葉と、俺だけにすがる哀切な眼差し。

 それが君の本心なんだって事は、錯乱したその時の俺ですら十分に理解出来ていた。

 でも君が俺に『ごめんね』って謝るほどに、俺は自分自身の過ちから過度の重圧を受けずにはいられなかったんだ。

 本当は俺の方が誠心誠意をもって君に謝罪しなければいけないのにさ。

 でも俺にはそれが出来なかった。
 だから俺はこの居た堪れない状況から逃げる口実として、ていの良い建前をかこつけてしまったんだ。

「このまま俺と一緒に居ても、君は幸せになれないよ。だからもういいだろ。出てってくれないか――」

 君が俺の為に告げた言葉の意味なんて考えようともしなかった。
 まして君が俺の為に流した涙の訳なんて、知ろうともしなかった。

 ううん、それだけじゃない。心無い言葉を浴びせられたのにもかかわらず、それでも俺を想い続けてくれた君の優しさを、俺は無残にも粉々に引き裂いてしまったんだ。

 全ては俺の疾しい気持ちを隠したいだけだったんだろうに。
 それがどうして君への捌け口として激しく表面化してしまったんだろうか。

 俺がバカだった――なんて簡単な言葉では釈明できない苦しみを君に味あわせてしまった。

 でも救われないのは、それで俺と君との関係が終わりを迎えたわけじゃなかったって事なんだよね。

 俺は生きてる価値なんてない。
 そう思わずにいられないほど、俺は君を更なる絶望の淵へと突き落としてしまったんだ。

 君を悪く言う権利なんて、俺にはこれっぽっちも持ち合わせていなかったはずなのにね――。
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