明日へ馳せる思い出のカケラ
第12話 晩秋の祝賀会
 季節は夏を過ぎ、秋へと移り変わっていた。

 あの日君とこじれてから、俺達は一度たりとも顔を会わせてはいない。
 まぁでもそれは当然だよね。俺は君に思い出すには耐えないほどの言葉を浴びせたんだから。

 あの日、俺がどれだけの苦痛を君に虐げたか。
 泣きながら立ち去る君の後姿を思い返す度に、その痛ましさを痛感せざるを得ない。

 それでも俺は少しの間、甘い考えを抱き続けていたんだ。まったく救いようの無いバカだよ、俺って奴は。
 だって時間を置きさえすれば、また君との関係が元通り修復出来るって考えていたんだからね。

 君は優しかったから、俺が本心で謝罪の言葉を告げさえすれば、きっと許してくれるだろう。そう思ってたんだよ。

 でもそんな現実あるはずがない。
 どうつくろったって、君との関係を修復出来るはずがない。
 それほどまでに俺は君をボロボロに傷付けてしまったんだ。

 そしてなにより俺が許されなかったのは、君に対して謝罪しようとする気持ちが極めて希薄だったって事なんだよね。

 確かにあの時の自分は就活で頭が一杯だった。
 追い詰められた状況による極度の精神異常状態だったと言えるほどにね。

 しかしだからと言って君を傷付ける権利なんてあるはずも無く、俺に非があるのは誰の目から見ても明白だったんだ。

 けど人生っていうのは本当に皮肉めいたものなんだよね。
 それからさして日が経たないうちに、俺は就職先を決めたんだ。すると単純な俺の性格が楽観的な一面を覗かせる。
 あの日君に叩きつけた苛立ちなんて、何処に行ってしまったんだろうって思うほどにね。

 まず初めに俺がしなければいけない事。それは誠心誠意の謝罪を君にするべきだったんだ。
 それも病室における彼女との過ちを正直に告白し、かつ君との約束を破ってしまった事に頭を下げるべきだったんだよ。

 いかにそれが彼女の心からの願いを聞き届けただけだっていう、致し方ない理由だとしてもね。

 いや、そもそもそこにどんな理由が存在しようと、俺が君を裏切った事に変わりはないんだ。
 くだらない言い訳を思い浮かべてしまう時点で、俺は自分の心の弱さを受け入れられなかったんだろう。ううん、それを受け入れるのが怖くて堪らなかったんだ。だから俺は君と向かい会うことを避けてしまったんだよ。

 そして俺は最優先事項であるはずの君との仲直りを先送りにして、友人からの誘いに乗り遊び呆けてしまった。
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