明日へ馳せる思い出のカケラ
第16話 悪夢の再会
 震えそうになる手を必死に隠す。
 グッと奥歯を噛みしめなければ、それは音を立てて暴れ出し兼ねない。

 それほどまでに俺の精神状態は混迷を極めていたんだろうね。
 なにせ君を目の前にした俺は、気を抜けば意識を失ってしまいそうなほどに呆然自失だったんだから。

 社会人になった君は少し大人びていた。
 その事にも俺は胸を摘まれる思いがしたんだろう。

 だって言葉を交わすほどの距離に近づくまで、俺はまったく君だという事に気付かなかったほどなんだから。

 どちらかと言えば童顔だった君。
 大学の頃はその容姿の幼さに、よく高校生に間違われたくらいだしね。

 でも今夜の俺にはそんな君の姿がとても大人っぽく、そして凛々しく見えたんだ。
 社会人になって、たくましく成長した姿。
 そんな感じに見えたのかも知れない。

 目が眩むほどに素敵さを醸し出し、そしてさらに大人の女性としての魅力にも溢れている。
 レジ脇に茫然と立ち尽くした俺には、少なくともそうとしか君を捉えることが出来なかったんだ。

 社会のしがらみから早々にリタイヤし、学生時代とさほど変わらないバイト生活に逃げ込んだ俺と、社会人としての責任を背負い懸命に今を生きる君。
 その乖離し過ぎた生き様に、俺は羞恥心と同義な気まずさを覚えずにはいられなかったんだ。

 だから意識が飛んでしまうほどに、目の前の君が眩しくて仕方なかったんだよ。

 現状に戸惑うばかりの俺は即座に君から視線を逸らす。
 しかし体が固まってしまい身動きを取る事が出来ない。

 あれほど会いたかったはずの君がすぐそこに居るっていうのに、動悸の激しさに尋常でないほどの息苦しさを覚えてどうにもならないんだ。

 このままでは失神して仕舞い兼ねない。
 いや、それよりも大声で叫び発狂してしまいそうだ。

 でもどうして君がここに居るんだろうか。
 なぜ今になって俺の前に姿を現したんだろうか。

 自分自身に向けられた後ろめたさを無理やり隠す為に、君が突然俺の前に現れた事を呪う様に疑問視する。
 それが完全な偶然の結果なんだと分かり切っているはずなのに、でも君が来店した事実が悪いのだと、俺は歪曲した責任を君に押し付けようとしていたんだ。
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