明日へ馳せる思い出のカケラ
 フリーターっていう燻ぶった姿を見られる事に耐えられなかったのかも知れない。
 真っ当な社会生活を送る君の姿と比較をするならば、それはある意味正当な気持ちなのだろうからね。

 単純に自分のみじめさを痛感し、忸怩たる苦い思いに苛まれただけなんだろう。

 けど俺が自分自身をこれ以上ないほど矮小に感じたのは、それだけが理由じゃなかったんだ。
 だって君が俺に差し向けた笑顔が、昔と何一つ変わっていなかったんだから。

 目を背けずにはいられないほど眩しい君の笑顔。
 それによって俺は居た堪れない想いで胸がきつく締め付けられたんだ。

 まるで俺の脆弱な心を見透かされているような気がしてね。

 でもどうして君はそうまで無垢に微笑みを浮かべていられるのか。
 俺はそう考えられずにはいられない。

 だってそうだろ。君に対してあれ程までの残酷な仕打ちをしてしまった俺なんだ。
 恨まれたり憎まれたりするならともかく、笑顔を向けられる理由なんてまったく思い浮かばないんだからね。
 でも現実として君は俺に向かって笑顔をかざしてくれている。

 もしかして大学を卒業したにもかかわらず、アルバイト稼業に身を費やす俺の姿を嘲笑っているのか。
 それとも社会の底辺をもがく姿に同情でもしているのだろうか。

 いや、それは考えられない。
 だって君の笑顔には一片の曇りも無く、俺との偶然の再会を心から喜んでいるふうにしか見えないんだから。

 くそっ。なんだって言うんだよ。
 どうして君はそんな表情でいられるんだ。

 冷静な状況判断なんて出来るわけがない。
 もちろん現状を切り抜ける答えなんて導き出せるはずもない。

 それでも何か君に向けて言葉を発せられたならば、もう少し俺の気持ちは落ち着いたのかも知れないね。
 でもその状況で初めに口を開いたのは俺じゃなかった。そして君でもなかったんだ。
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