君じゃなきゃ
やってしまった……。

真沙への理性がどうにも押さえられなくなってしまった。
もとはと言えば今日の真沙がいつもと違う姿を俺に見せるからだ。

なんなんだ……あぁ……。





無言で水を飲む真沙。

俺は真沙の横に座った。

横からちらりと真沙を見ると、ごくごくと水を飲むたび喉を水が通っていく様子が夜の月の薄明かりに照らされて色っぽい。

「……ったく、拓海、何すんのよ。酔ってる女を襲うなんて卑怯だ。ありえん。それも私に。やめてよ。」

「悪い。なんかしたくなった。」

「したいときにする女は別にいるでしょ。」

「だな。」





「あー。お水美味しかった。ありがと。」

と、柔らかい笑顔で言ってくる真沙。

「なー。真沙はどうしてそうやって普通にしていられるんだ。
今、俺に襲われたばかりでよー。」

「……そお?普通でダメ?」

あぁー…………。
俺は大きなため息をついた。


「やっぱ真沙、つえーな。高校のときと全然変わんないな……。」


「何それ。」


「真沙は覚えてないかも知れないけどさー、高校の時に俺ら一緒に委員やってたろ。
その委員会があった日、帰りが遅くなって二人で教室にいたとき薄明かりで真沙を見てたら無性に欲しくなって、俺キスしようと抱きついたろ。
そしたら真沙、ものすごい早業で俺と真沙の顔の間に教科書挟んでキス阻止しただろ。

もービックリして、ってかキスしようとして阻まれた俺は恥ずかしくなって立場なくって黙っていただろ。そしたら真沙、何にも無かったかのように笑って、帰ろっ!とか言うし…………。
なんか、つえー奴って思ったよ。」

「あー……、あったかなぁ……。」

「だってさ、あの頃の俺って自分で言うのも何だけど学校でモテまくってたろ。だから、俺が言い寄って断った女なんていなかったし、真沙の反撃はかなりショックだったんだよな。」

「あー、確かに超モテモテだったねー。同じクラスの女子なんてみんな拓海のこと好きだったよ。それに調子づいて何人の子とやったんだか。」

「…………、まぁそう言うこともあったわなー……。そうそう、そう言えば社会人になってから真沙と飲みに行った帰り、俺が車で家まで送ったときも、無性に帰したくなくて強引に抱きしめようとしたら、これまたカバンで顔面殴られたし……(笑)」

「あー、うん、それはあったな。」

「ほんと、真沙って隙がなかった。」


……そう、真沙は隙がなかった。


昔から美人でスタイルもよい割には、サバサバした性格とショートヘアにボーイッシュなスタイルで女子からもモテモテだった真沙。
真沙のことが好きだと言う男子を何人も知っていたが、誰もが告白して玉砕していた。
もう、俺ぐらいしか真沙は落とせないとも言われていた。

俺自信も、俺が告白したら真沙は落ちるだろうと思っていた時に起きたのが、あの委員会の帰りの出来事。

見事に撃沈…………。

俺に落とせない女がいたなんて、ショックだった。

それから必要以上に真沙を意識するようになり、どんどん彼女の魅力にはまっていった。

でも、結局いつまでたっても落とせずに今に至る…………。


けど、今日は違った。
隙だらけだった。
何かいつもの真沙と違った。
何かあったのか?

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