それでも僕が憶えているから

それともおばさんが言っていたように、あえて目をそらしているんだろうか。
ショックで心が壊れてしまわないよう、自己防衛のために……。

それが正しいことなのか、わたしにはわからない。
けれどそれが彼にとって必要なことだというのは、なんとなくわかる。

ねえ、蒼ちゃん。
あなたの中には、今もまたホタルがいるよ。

そして、蒼ちゃんの本当のお父さんを探しているんだよ――。


   * * *


「起きろ」


いつの間にかわたしも眠っていたらしい。体の右半分に感じる心地よい温もりに身をゆだねていたら、突然、声が飛びこんできた。

のろのろと開けた視界に、段ボールだらけの光景が斜めに映る。

……あれ? なんでこの部屋、こんなに傾いているんだろう?
と寝ぼけた頭で考えたわたしは、すぐに状況を理解した。

斜めなのは部屋じゃなくて、わたしの体だ。
あろうことか、蒼ちゃんに寄りかかって眠っていたのだ。


「ご、ごめん、蒼ちゃん!」


一気に覚醒して体を離す。ところが。


「え……ホタル?」


そこにいたのは蒼ちゃんではなく、眉間にしわを寄せたホタルだった。
< 144 / 359 >

この作品をシェア

pagetop