リリー・ソング

表札には、堂々と"美山"と漢字で書かれている。
ネットで頼んだ荷物が重かったり大きかったりすると、部屋の前まで運んでもらわないといけないから、らしい。
いくら入り口がオートロックだからと言っても、名前が売れている作曲家でプロデューサーなのに、深夜はちょっと頭がおかしいと思う。

それならもっと、コンシェルジュとかがいるみたいな、厳重なセキュリティの高層マンションとかに引っ越したほうがいいんじゃない?
と言ったことがあるけれど、もう楽器や機材を完璧に配置してちょっとしたレコーディングならできるくらいのスタジオみたいに改造してしまったこの部屋から引っ越すのは考えられないそうだ。
仕事を始めて間もない頃から住み続けているから、新たな巣作りをするなんて考えるだけで億劫だ、と深夜は笑った。音楽家は荷物が多いんだって。

『百合がどうしてもそういうセレブリティな暮らしがしたいって言うなら、考えるけど。』
『私はそういうのはいい。』
『じゃあ、いい。良かった。』

深夜はとんでもない額のお金を稼いでいるはずだけど、時々ネットでどん、と大きな荷物を頼むくらいで、ほとんどお金を使わない。
私も似たようなものだけど。
私の場合は、使い方がわからないだけだけど…深夜もそうなのかな。

「ただいま。」

私はドアを開けてその部屋に入る。3LDKの立派な部屋だ。ロフトまでついてる。

「お帰り。」

どう見ても一人暮らしの人の部屋じゃない。
と言ったら、だって百合と暮らすつもりでここに決めたんだから当然だよ、と深夜はきょとんとした顔で言った。

「どうだった? 初めてのファッション誌の取材は。」
「うん…なんか、色々困った。美の秘訣とか聞かれちゃった。」
「美の秘訣?」

フフッと深夜が笑った。
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