リリー・ソング

「専門分野が違い過ぎる。女の子が歌う可愛いだけのラブソングなんて、どっかで聞いたことあるようなのしかできないよ。いいの?」
「リリーさんには可愛い曲も書くじゃないですか。」
「そういうのでいいの?」
「駄目です。」
「駄目なんじゃないか。」
「昔はバンバン書いてたじゃないですか。」
「もうあんなつまらないものは作りたくないよ。下積みだと思ってやってたんだよ。そろそろ仕事の選り好みしたっていいと思う。」
「何偉そうなこと言ってるんですか。リリーさんのほうがよっぽど謙虚に頑張ってますよ。」
「リリーは本当に新人だから当然だよ。」
「そんなこと言って。今やリリーさんだって売れっ子なんですよ。いつまでも深夜さんの庇護下に置かなくてもやっていけますよ。」
「………」

深夜が不満そうに黙った。子どもみたい。私はカモミールティーを3人分淹れながらこっそり笑った。

「リリーは…」
「ハイハイ。とにかく、こんな不毛な言い合いするために来たんじゃないんです。」

榎木さんが遮って、鞄から書類を出し、テーブルに置いた。

「座って、榎木さん。」

私がリビングに戻り促すと、思い出したように、ああ、と榎木さんは椅子を引いて座った。

「深夜も。こんな時間にコーヒー飲むとまた眠れなくなるよ。」

私はティーカップをテーブルに置き、深夜のマグカップを取り上げた。
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