リリー・ソング
リリーさんも聞いてください、と榎木さんが言うので、私も座った。
「映画の主題歌のオファーが来てます。」
「映画?」
思いがけないことを言われて私は声をあげた。
「いい話だと思いますよ。佐藤宮一(さとうみやいち)監督って名前は聞いたことあるでしょう?」
「ああ…なるほど。」
深夜が頷いた。
「知ってるの?」
「いい映画多いよね。耽美な感じで。確かにリリーのイメージと合ってるかもしれない。」
そうなんだ。深夜がそう言うなら、きっとそうなんだろう。
「まだ撮影も始まってないみたいなんですけど。それでできれば音楽は深夜さんにお願いしたいと。スケジュールの問題があるので今保留にしてもらっています。僕としては溜まってる仕事をさっさと片付けて頂いて、受けたいと思ってるんですが。」
「ああ…」
深夜はまたため息をついた。
私の知る限り深夜は仕事をサボってなんかいないけど、抱えている仕事が多すぎるから、きっとやってもやっても追いつかないんだ。
「じゃあしばらく仕事は選り好みして、セーブして。」
「根に持ちますねえ。」
榎木さんが笑った。
やるんだ、深夜。映画好きだもんな。
私がぼーっとそんなことを思っていたら、
「それで、主題歌は指定の曲がありまして。」
「書き下ろしじゃなくて?」
「はい。それが、あれなんですよ。リリーさんのデビュー曲の。"benthos"」
「ーー……」
驚いた。深夜も何も言わない。
「それについては、どうですか。あの曲は思い入れがありますよね。僕の一存では差し出せません。」