ばくだん凛ちゃん

☆ 至 ☆

ようやく、当直からの日勤が終わる。
僕は背伸びをしながら目を見開いた。

今日、ここにいてはいけない人がいる。

「何してるの?」

思わず声を掛けた。
何してるも何も、呼出しがあったからいるんだろうけど。

「まあ、色々ありまして」

振り返った透の顔は普段、いくら寝不足でも見せないのに。
少しだけ目が充血していた。

それが夕方5時。

「え、ハルちゃん、大丈夫なの?」

桃ちゃんから色々と報告が来ているのでハルちゃんの精神状態が良くないという事は知っている。

「…多分」

おいおい、そんな暗い顔をするなよー!!
病院に来る子供たちがビックリするぞ?

「今日は帰られそう?」

その問いに透は首を横に振った。

「NICUだから」

そうか、相当危険な状態か。

「わかっているとは思うけど、休めるときは休めよ」

目に力がない透はうんうん、と頷いた。
多分、しばらく家に帰られないな。
下手をすれば1週間、ずっと病院、か。

自分の子供と妻が不安定な時なのに。
それでも自分の選んだ道の為に家族が犠牲に。
本当に矛盾した仕事だと思うよ、医師という仕事は。
特に産婦人科、小児科は。

「あ、あとでハルちゃんの所に寄ってみるよ」

僕もいい加減歳なので当直明けから日勤を終えて、その後にどこかに立ち寄るということはしたくないんですがね。
弟の大事な奥様をそのまま見捨てるのはどうしても出来ないので。

「お願いします」

透は深々と頭を下げた。
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