ばくだん凛ちゃん

■ 透 ■

兄さん、誰に聞いたのかな。

ハルかな。
それとも小児科の誰かかな。
…速人か、だとすると相変わらず口が軽いな。



別に凛やハルが嫌だとは本気で言っていない。
…ちょっと疲れたのは確か。

凛が生まれてきてくれたのは本当に嬉しい。
…ただ、生まれつき神経質な子なんだろう。
常に人肌が恋しい。
本能的に誰かの気配が消えたり薄くなったりすると泣いてその存在を知らせているのだと思う。
ハルはそれに付いていけていない。
僕がいない分、家の事が出来ない。
頼る事が出来る血縁者もいない。
周りがいくら手伝ってくれると言っても気を使ってハルは疲れきっている。

その気持ちがわかるから、僕はハルが少しでも休めるように手伝っているけど…。

実際は空回り。

自分自身にも嫌気が差してきた。



それにトドメを刺したのは速人。

『自分の子供の診察をするのって怖くないですか?』

最初は何、言ってるんだコイツ。

そう思っていた。

『健診で何か発見したらショックだし、今後病気診察をして自分の手に追えなくなって紹介状書く羽目になったりしたら自分は一体何をしていたのかって思いますよ?』

実の子だから感情移入が激しくなる。

そう思ったらいつものように冷静に診察出来なくなる。



…案外、弱いのかも、僕。



でも、兄さんが言ってくれている事も確かにそうなんだ。

僕が今後、凛を診る事はないかもしれない。

…うん、きっと、ない。

自分がこの病院を退職して開業医にでもならない限り。
病気診察でわざわざ混みまくるこの病院に来る意味もない。
1ヶ月健診が終わればそれ以降は近所の開業医へ行けば良いと思う。



怖いと思う一方で自分でも診たいと思う。
< 26 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop