ばくだん凛ちゃん
「お疲れ様」

家に帰ってハルに声を掛けると。

「お つ か れ さ ま」

棒読みの台詞が返ってきた。
…怒ってるな。
こういう時に顔を合わせるのは良くない。
僕は凛をあやしながら過ごそうとした。

「透、ちょっと話しない?」

…怖い、ハル。

「えー…。すぐにしないといけない?
僕、何だか疲れたなあ」

凛を抱っこしたまま立ち上がって寝室へ行こうとしたら、後ろに重心が動いた。

「…逃げるな、透」

ハルが服を引っ張っていた。
ゆっくりと振り返る。
目が座ってますよ。

「凛、泣くよ?」

「別に良いし」

凛が泣くのは親の精神的な負担にもなるから良くないし。

そんな事を言っても逃げられないな、と思った僕は諦めてリビングのソファーに座った。



「話って?」

「…朝の事、ちゃんと説明してくれない?
凛がどうして大学の保育科で使われるの?
で、私にそれを何故言わなかったの?」

「父さんから写真を見せて貰った伯父さん達が凛を可愛いって絶賛してさ。
慶叔父さんが特に凛を大学のパンフレットのモデルに使いたいって言ってきたんだ。
勿論、断ったよ。
断ったからハルに言う必要もないと思った」

ただ、それだけの話。

「…どうして他の伯父さんも来たの?」

「凛の成長を見たいんだってさ」

野次馬根性でね。

「お義父さんがそう言うならわかるけど、何故その兄弟が?」

「自分達の孫が全て男の子だからじゃない?
それに赤ちゃんが生まれたのも久々だしね」

ふーん、と言ったハルは半分は納得して半分は疑問に思っているみたいだ。

「確かに凛は贔屓目を抜いても可愛いと言われる部類に入る。
今しかないこの可愛い時期を見ておきたいんだろう」

ハルは不満な顔をして

「孫でもないのに?」

僕は思わず苦笑いをする。
この感覚を理解出来るかどうかが僕とハルの決定的な違いだろうね。

「あんな変な伯父さん達だけど、身内意識は強いからね。
親戚の事は自分の事のように動くんだ。
その子供達、つまり僕のイトコ達はそういう意識は弱いけれど。
大家族の名残がこの高石家にはあるんだね」

口煩いから疲れる事も多々あるけれど。
今は僕も大人になって適当に流すようにはなったけど、昔は干渉され過ぎて反発していたからね。
それが嫌で大学は地方に行ったんだ。

けれど。
昨年に結婚の挨拶を親戚の前でしてからあのオジ達はやたらと僕に連絡してくるようになり…。

父さんに迷惑だ、と言ったら皆、老いてきて寂しくなっていると思うから適当に相手をしてやってくれ、と頼まれた。

昔なら絶対に反発していたけどね。

僕も歳を取った証拠なのかもしれない。

こういう家の繋がりは普通の核家族で育った人には理解に苦しむ事があると思う。
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