ばくだん凛ちゃん
「まあ、もう考えても仕方ないからいい」

「うん、ごめん」

ハルの疲れている顔を見て謝った。
謝ったところで何も解決しないけれど。
何だか気まずい。
子供が生まれてから何となく僕とハルの関係が遠くなっている気がする。
家にいる間は出来るだけハルの力になろうとするけれど上手くいかない。
どうしたらいいんだろ?
子供がもう少し大きくなったら修復できるのかな。



「高石先生、お疲れですよ」

翌日、夕方にようやく仕事が落ち着いて食堂で遅い昼食を取っていると後ろから聞き慣れた声がした。
振り返らずとも誰かわかるけれど、振り返る。
黒谷先生だ。

「そんなに疲れてます?」

僕の向かいに黒谷先生は座って頷いた。

「死にそうな顔をされています」

優しく微笑む黒谷先生。
この3月で後期研修が終わる。
別の病院に行くかな、と思ったけど、このまま紺野に残るらしい。
いずれは今年の秋に結婚する開業医の若林先生と一緒に医院を運営したいと言っていた。

「…黒谷先生は僕達みたいにならないでください」

ため息混じりに僕が言うと、少し驚いた様子の黒谷先生は

「…まさか離婚ですか?
子供が生まれたばかりですよ?」

「生まれてから気まずい。
全てが空回りしているよ」

「…高石先生がそんな事を言うと、不安になります。
結婚して、きちんとやっていけるのかなって」

不安にさせてごめんなさい。
でも今、現実に僕は参ってきているんだ。

「まあ離婚まではいかないように努力はするよ。ハルとはもう、離れたくないし」

その言葉に黒谷先生はニヤニヤする。

「まあ今は奥様、慣れない事だらけで毎日必死に戦っておられると思います。
凛ちゃんがもう少し大きくなったら、強い絆で結ばれているお二人、仲良く元通りになりますよ」

そうなって欲しいよ。

「ありがとう、黒谷先生」

話を聞いてくれたお礼を言うと、

「大丈夫ですよ。
高石先生ならきっと乗り越えていけます」

黒谷先生はニコニコ笑っていた。



本当にありがとう。
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