ばくだん凛ちゃん
「高石先生、お電話です」

翌日の午後に黒谷先生のフィアンセ、若林先生から電話が掛かってきた。

「お忙しいところ恐れ入ります」

相変わらず、若林先生は腰が低い。
僕の方が年下なのに。

「いえいえ、こちらこそご無沙汰しております」

何か、余程の症例でもあったのだろうか。
時々、若林先生から連絡があるけれど、大抵は先生のところでは手に追えない時だ。

「先生の娘さん、凛ちゃんでしたっけ?」

「…はい、そうですが何かありました?」

突然の凛の名前に僕は驚く。
急に熱出して吐いたりしたのかな。

「今日、午前中に奥様からお電話がありまして」

ああ、そうか。

「予防接種の事ですか?」

「ええ、そうです。
奥様には午後から来ていただきましてちょうど2ヶ月だったのでロタ、ヒブ、肺炎球菌、B型肝炎をしました。
…ただ、高石先生がすると思っていたので。
僕のところで良いのですか?」

若林先生は遠慮がちに言った。

「先生なら僕も安心です。
どうぞ宜しくお願い致します」

ハル…。
結局は若林先生の病院に行ったんだ。
少しホッとした。
家から一番近い小児科は正直、行かれたらどうしようと思っていた。
あそこは本当に勘弁して欲しい。
本来なら早急に紹介して欲しい事でも最後の最後まで診て匙を投げてくる。
診たいのはわかるけれど、治療する設備や環境と患者の状態を考えて欲しい。
自分の研究欲なんて別のところで発揮すれば良い。



しかし若林先生を選ぶとは。
中々やるねえ、ハル。
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