ばくだん凛ちゃん
6.凛ちゃん 4ヶ月検診

★ 透 ★

「4ヶ月検診だって」

4月下旬。
家に帰るとハルは市役所から届いた書類を僕に見せた。

早いもので凛ももう4ヶ月。
首はほぼ座っているし、僕が見てる限りでは何も問題ないと思う。

「へえ、いつ?」

用紙を見ると…。
5月8日…。

僕は鞄から手帳を取り出した。
あ、やっぱり。

「僕、その日、保健センターに行くことになっている」

時々、市の要請で紺野の小児科から乳幼児健診の医師を派遣している。
僕も数カ月に1回は行くけれど、その日は確か4カ月健診。

「じゃあ、透が診てくれるの?」

ハル、目を輝かせて言わない。
集団検診はあまり期待しない方がいいかも。

「他の病院からも何人か行くはずだけど。
確か若林先生もその日行くと思うんだけどな」

先日、若林先生が

『そろそろ凛ちゃん、集団検診ですね。
私、5月8日に行くことになってます』

と電話で言っていた。
何となくその日かな、というのを予想していたんだろうな、若林先生。

「じゃあ、透か若林先生がいいなあ」

「…期待しない方がいいよ」

「なんで?」

頬を膨らませているハルが何とも言えないくらい、愛しい。
思わず、ハルの手を握り締めてそっと唇にキスをした。

「僕や若林先生以外だったらきっとガッカリするよ」

「…じゃあ、受けない」

「一応受けておいて。受けないと市役所から電話掛かってくるし」

後々、ややこしい。

「他の先生ってそんなに期待外れなの?」

心配そうな目をしてハルは僕を見つめる。

「…まあ、集団検診って無料だから。
『病院へ来て相談して』とか言う人もいるしね」

ちなみに僕は言わないよ。
相談されたら一応話は聞く。
ただ、普通の診察よりも短く、限られた時間しかないから出来るだけ回答はコンパクトにするけど。

「透はそんな先生をどう思っている?」

ハル、そんな事を僕に聞く?
思わず、言葉を失った。

「透でも答えられない事があるんだ」

…何か、今日は挑発的じゃないか、ハル?

「他の先生なんてどうでもいい」

「えっ?」

ハルの目が丸くなる。

「僕は自分が今まで経験してきたことや色々勉強することで患者さんの役に立とうと思っている。
他の先生が言う事とかは参考にはするけど、その人のスタイルを真似しようとか、批判しようとかは思わない。
そういう先生がいてもおかしくはない。
ただ、僕はそのタイプじゃない。
僕が思っている事はまず子供が健康でいられる事。
その保護者にも色々な知識を身につけて貰いたい。
だから聞かれた事にはきちんと答えるよ」

そう言うとハルは嬉しそうに僕を見つめている。

「やっぱり透は、私が思っていた通りの先生だ」

「…それってどういう?」

聞こうと思ったのに。
ハルが僕の胸に顔を埋めて背中に腕を回した。

「丁寧に教えてくれる先生が一番よ、透。
お兄さんもそうだけど、透もそういうタイプの先生で良かった」

…これって一応、褒められているんだよね?

「どうもありがとう、ハル」

ハルの顎を人差し指で上に向けて、感謝の気持ちを込めてもう一度ハルの唇にキスをした。
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